子宮移植への取り組み
名古屋第二赤十字病院は、子宮の生体移植手術の実施に向け、
プロジェクトチームを設置したと発表した。子宮生体移植は
国内ではまだ実施例がない。今後、海外の成功事例なども
参考にしながら具体的な研究実施計画を検討する方針だ。
子宮移植は主に生命維持のために行われる他の臓器移植とは異なり、
妊娠・出産を目的に子宮を移植する技術。事前に体外受精で作った
受精卵を戻して出産させる。国内では今年1月、慶応大学が
年内にも学内の倫理委員会に臨床研究の申請を行う方針を示した。
子宮移植は世界では2000年から試みられており、
14年にスウェーデンで初めて子どもが誕生した。
対象はロキタンスキー症候群の女性のほか、子宮がんなどで
子宮を失った女性だ。ロキタンスキー症候群は4000~5000人に
1人の割で起きるとされる。
第三者の子宮を移植する。提供者は母や姉妹などの親族のほか、
海外では脳死者の場合もある。
移植後は数カ月から1年ほど、免疫抑制剤を服用しながら様子をみる。
その後、受精卵を子宮に戻し、妊娠につなげる。
また、出産は帝王切開で行われる。移植した子宮が体内にある間は
免疫抑制剤を服用し続ける必要があるため、出産後に次の子どもを
望まない場合は子宮を摘出する。
免疫抑制剤については、胎児への影響などがまだ不明である。
健康な人の体にメスをいれていいのかも議論すべきだ。
以上のような課題が存在するため、慎重な議論が必要だろう。
ヒト受精卵の損傷を修復
近い将来、出生前に致死的な遺伝子の変異を除去できるように
なるかもしれない。
米国の研究チームは、CRISPR-Cas9を用いて、58個中42個の受精卵から
肥大型心筋症の原因となる遺伝子変異を除去することに成功したようだ。
この肥大型心筋症とは、心筋が肥大化する遺伝病であり、500人に1人が
発症する。
今回、オレゴン健康科学大学(OHSU)胚細胞・遺伝子治療センターの
シュークラト・ミタリポフ主任研究員らは、遺伝子変異のある
男性ドナーの精子と変異のない女性ドナーの卵子から58個のヒト受精卵を
作成し、CRISPRを使って遺伝子から病気の原因となる変異を切り取った。
CRISPRでは、Cas-9という酵素をDNA分子の標的部位までガイドし、
そこで切断する。うまくいけば、DNAが自己修復し、変異が消える。
この手法は常に成功するわけではない。これまでの研究では、変異を
除去できた細胞と除去できなかった細胞の両方が混在する、
モザイク状の受精卵もできてしまっていた。
新しい手法では、受精後に遺伝子を編集するのではなく、CRISPRと精子を
同時に卵子に注入している。その結果、モザイクにはならなかったようだ。
実験では約70%の受精卵で遺伝子変異を修復することができた。
受精卵は胚盤胞の段階まで成長させたが、異常は見られなかった。
調査後、受精卵は廃棄された。
タイタンのシアン化ビニル
冬になると、土星の衛星タイタンの極地では、シアン化ビニルと
呼ばれる有毒の分子が激しい雨となって降り注ぐ。
タイタンのリゲイア海の中には、100億トンを超える
シアン化ビニルが含まれていると推測される。
条件が整えば、このシアン化ビニルが集まって、地球上の生命が持つ
細胞膜のような、膜状の構造を形成する可能性があるとのこと。
この「シアン化ビニルが細胞に似た構造を作る可能性がある」という
アイデアは、元々、コーネル大学の研究グループが提唱したものだ。
シミュレーション上では、シアン化ビニルはアゾトソームを作る能力を
持っている可能性があると導き出されたものの、検証するにも地球上では
再現が難しいので、本当に自己組織化できるのかについては、
まだはっきりとわかっていない。
しかし、仮にシアン化ビニルに膜を形成する力があると仮定した場合、
タイタンの湖は、生命が存在するために必要な条件の1つを満たしている
ということになる。
量だけでいえば、リゲイア海には少なくとも360億匹のダイオウイカを
作れるだけのシアン化ビニルが存在するので、タイタンに生命が存在する
可能性も0ではない。
韓国政府の税制改正案
韓国政府は税制改正案を発表した。富裕層や大企業への課税を
強化する一方、所得が少ない層への支援を増やす。
韓国では投機によって都市部の不動産価格が高騰しており、
一般市民が住宅を買えなくなっているとして、不動産取引を
制限する法案も同日発表した。文在寅大統領が掲げる格差解消が
狙いだが、野党は反発している。
韓国政府は「分配」重視の経済政策を発表したばかりで、今回の
総所得額が5億ウォン(約5000万円)を超える人の税率を
現行から2ポイント引き上げ、42%にする。3億~5億ウォンの人も
2ポイント上げて40%にする。
資産や所得が一定額以下の人や、中小企業への税制優遇は拡大するが、
富裕層や大企業からの課税強化により、年5.5兆ウォンを捻出する。
また、住宅市場安定法案は、高騰した住宅価格を沈静化させるための
「荒療治」で、ソウル全域を「投資過熱地域」に指定して、
住宅の転売を厳しく制限し、銀行の融資条件も厳しくする。
ソウルのマンション価格は00年比でほぼ4倍に跳ね上がっており、
住宅取引量の44%を既に住宅を所有している人が占めている現状も
指摘されている。
今回の一連の政策に対して、保守系野党は強く反発している。
野党第1党の自由韓国党は法人税引上を「企業の足を引っ張る増税」
と指摘しており、即時撤回を求めている。
全国経済人連合会(全経連)は「保護主義の台頭など不確実性が高い
状況のため、世界的な法人税の引下競争などを総合的に考慮し、
政府と国会で踏み込んだ議論を期待する」と、再考を求めた。
不動産政策について、中道系の野党第2党の国民の党は
「近視眼的な政策で、根本的な問題解決にならない」と批判。
中長期的な対策が必要だと主張した。「持つ者」と「持たざる者」の
対立が根深い韓国で、賛否の議論が激しくなりそうだ。
アイヌ遺骨がドイツから返還
日本政府と北海道アイヌ協会は、ドイツの学術団体から返還された
取扱方針が決まるまでは、暫定的に北大が保管する。
この遺骨は、1879年(明治12年)にゲオルク・シュレージンガーが
研究目的で持ち出した1人分の頭骨で、138年ぶりに返還された。
BGAEUを設立したベルリン大教授ルドルフ・ウィルヒョウが
現在まで保管していたようだ。
アイヌ民族の遺骨は、先住民族研究の活発化により、19世紀半ばから
戦後にかけて北海道で盗掘され、一部は海外にも持ち出されている。
ドイツのほかにもオーストラリアやアメリカ、イギリスなどでも
保管されていることがわかっているが、海外のアイヌ遺骨が
外交ルートで返還されたのは初めて。
ベルリン大教授のルドルフ・ウィルヒョウが保管していた。138年ぶりに返還された。
平井室長は「100年以上も遺骨が保管されていたことは遺憾だ」としたうえで、返還決定に謝意を示した。また、第1号返還について「大きな一歩であり、引き続き海外からの返還に向け努力したい」と述べた。
アイヌ民族の遺骨については、1880年発行のドイツの学術誌には、
札幌市近郊の墓から持ち出され、不当な方法で学術団体に渡った
経緯が記されている。
iPS細胞を利用した治療薬研究
京都大などのチームが、難病「進行性骨化性線維異形成症(FOP)」を
治療する臨床試験を近く始めるようだ。iPS細胞技術を利用して
治療薬候補として導出された薬の治験は世界初。
研究チームは、FOPの患者から提供を受けた細胞から、iPS細胞を作製。
骨の形成にかかわる細胞に変化させた後、約7000種類に及ぶ薬などを
投与して効果を調べた。
その結果、臓器移植の拒絶反応を防ぐ薬として使われる「ラパマイシン」
という物質に、骨の形成を抑える効果があることを確認した。
治験では、実際に患者にラパマイシンを投与して効果や安全性を確かめる。
現在FOPに治療薬はないため、治療法の確立につながることを期待したい。