Q値の抜け穴の発見
Q値(クオリティ・ファクター)とは、
共振現象を利用するシステムの評価に使われる指標であり、
共振角周波数を振動減衰率で割った値であると定義され、
Q=ω0/Γと定式化することができる。
Q値が大きいほど、共振角周波数ω0(ω=ω0±γ)は高くなり、
バンド幅Δω(=2γ)は狭くなる。
また、減衰率Γはバンド幅Δωに等しくなるので(Γ=Δω)、
長時間振動させようとすればバンド幅が狭くなるという、
トレードオフの関係が成り立つとされていた。
このトレードオフ関係はQ値の根本的制約として考えられてきたので、
振動を利用したあらゆるデバイスの設計に取り入れられているが、
今回はそれを相反定理を利用して突破しようとしている。
ここでいう相反定理とは、ある領域内に流れる電流密度J1とJ2の
2つの電流が、それぞれ電界E1とE2を発生させているとき、
J1・E2を全空間で積分した値がJ2・E1を積分した値に等しくなる
という関係のことである。
同じアンテナを送信に使っても受信に使っても指向性は変わらないという、
アンテナの相反性(Iab/Va=Iba/Vb )の性質もこの相反定理から説明できる。
研究チームは相反定理が破れた系が存在すると示した上で、
定理が破れた系ではバンド幅と振動時間はトレードオフにはならず、
それぞれの要素を独立に扱うことができることに着目したとのことである。
また、時間と周波数にはフーリエ変換の不確定性(Δt・Δω≥1/2)という
別のトレードオフも存在しているが、その関係を保ったまま
相反定理が破れる場合があることを解明した点が、今回の研究のポイントだ。
研究チームの主張に基づけば、相反定理が破れた系では、
Q値が極めて高く、減衰率がほぼゼロで、持続時間が無限に近づくような
場合であっても、非常に広いバンド幅をとれるようになるようだ。