ヒト受精卵の損傷を修復
近い将来、出生前に致死的な遺伝子の変異を除去できるように
なるかもしれない。
米国の研究チームは、CRISPR-Cas9を用いて、58個中42個の受精卵から
肥大型心筋症の原因となる遺伝子変異を除去することに成功したようだ。
この肥大型心筋症とは、心筋が肥大化する遺伝病であり、500人に1人が
発症する。
今回、オレゴン健康科学大学(OHSU)胚細胞・遺伝子治療センターの
シュークラト・ミタリポフ主任研究員らは、遺伝子変異のある
男性ドナーの精子と変異のない女性ドナーの卵子から58個のヒト受精卵を
作成し、CRISPRを使って遺伝子から病気の原因となる変異を切り取った。
CRISPRでは、Cas-9という酵素をDNA分子の標的部位までガイドし、
そこで切断する。うまくいけば、DNAが自己修復し、変異が消える。
この手法は常に成功するわけではない。これまでの研究では、変異を
除去できた細胞と除去できなかった細胞の両方が混在する、
モザイク状の受精卵もできてしまっていた。
新しい手法では、受精後に遺伝子を編集するのではなく、CRISPRと精子を
同時に卵子に注入している。その結果、モザイクにはならなかったようだ。
実験では約70%の受精卵で遺伝子変異を修復することができた。
受精卵は胚盤胞の段階まで成長させたが、異常は見られなかった。
調査後、受精卵は廃棄された。