サムの備忘録

趣味ネタ、時々社会的なテーマ。IT関連のテーマはもう1つのブログに投稿してます。

なぜゾウムシは硬いのか

ゾウムシなどの甲虫類は外骨格クチクラが発達しており、

乾燥や外敵から身を守るために重要な役割を果たしている。

この外骨格の硬さは、ナルドネラという共生細菌によるもので

あると、産総研などで構成される研究チームによって解明された。

news.mynavi.jp

今回の研究によって、ナルドネラはチロシン合成を介して、

宿主昆虫であるクロカタゾウムシの外骨格の着色と硬化に

関与していることや、チロシン合成の最終段階が宿主側の

遺伝子によって制御されていることが実証された。

 

4種のゾウムシに共生するナルドネラは、ゲノムサイズが約20万塩基対

と極めて小さく、生存に必須な複製/転写/翻訳に関わる最小限の遺伝子

以外のほぼ全ての代謝系の遺伝子が失われていた。しかし、チロシン

合成系遺伝子群のみは保存されており、このことから、ナルドネラは

チロシン合成に特化した機能をもつことが判明した。

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また、クロカタゾウムシの幼虫を高温や抗生物質で処理して、

感染密度を抑制したところ、体液中のチロシン濃度が減少し、

羽化した成虫の外骨格が赤っぽく柔らかくなった。この結果は、

ナルドネラを介したチロシン合成が、宿主ゾウムシの外骨格の

着色や硬化に重要な役割を果たすことを示している。

 

さらに、幼虫の共生器官で発現している宿主側の遺伝子をRNA-Seq法で

調べたところ、チロシン合成の最終段階を担うアミノ基転移酵素遺伝子が

発現しており、他の組織と比べて共生器官での発現量が有意に高かった。

RNA干渉法で幼虫時にアミノ基転移酵素遺伝子の発現を抑制したところ、

体液中のチロシン濃度が低下し、赤っぽく柔らかい成虫が羽化した。

 

このことは、ナルドネラによるチロシン合成の最終段階は、宿主である

ゾウムシの酵素遺伝子によって担われ、チロシン合成の制御が行われている

ことを示唆している。

 

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したがって、以下のことがいえる。

 

1.チロシン合成に特化した極小ゲノムを持つ

2.宿主の外骨格クチクラの形成に必須である

3.チロシン合成系の最終段階を触媒する酵素遺伝子をもたない

4.チロシン合成は宿主側のアミノ基転移酵素が制御している

5.ゾウムシ類の共生器官はチロシン供給器官として機能している

 

今後、研究グループは、他の昆虫類についても同様の共生関係が

成立している可能性を検討するという。今回の研究成果は、

クチクラ形成を標的とした新たな害虫防除技術の開発につながる

可能性がある。