エピジェネティクスの解明
遺伝子は環境や生活習慣によって変化することが近年の研究で
わかっており、「エピジェネティクス」として知られている。
そのメカニズムを、ドイツのマックスプランク免疫生物学
エピジェネティクス研究所の研究グループが解明した。
生物学においては、遺伝子は生涯を通じて変わることがないものと、
長らく考えられていた。しかし、近年の研究では、環境的な変化が
特定遺伝子の発現に影響を与えている事実が明らかになっており、
環境によって後天的に発現した遺伝子が次世代へと遺伝する可能性も
示唆されている。
今回、研究グループは、ショウジョウバエにおけるエピジェネティックな
変化が、母親から胚に伝達されることに着目し、H3K27me3に焦点を当てた。
H3K27me3は、クロマチン構造の変化と遺伝子発現の抑制に関連している。
まず、生殖細胞がつくられる過程で、H3K27me3の分布を調べてみた。
すると、精子形成の過程では激減していたH3K27me3が、卵母細胞には
豊富に残されており、受精後も母方のH3K27me3だけは存在している
ということがわかった。これは、母親が後天的に獲得した形質が子孫に
継承されていることを示している。なお、わずかながら成熟精子にも
H3K27me3は保持されているため、父方のエピジェネティックな情報が
受精卵に継承される可能性も考えられる。
また、ショウジョウバエのH3K27me3を消去したところ、初期発達中に
H3K27me3が欠けた胚は、胚発生の終わりまで成長することができなかった。
これは、生殖においてH3K27me3がエピジェネティックな情報を次世代に
継承させるだけでなく、胚の発達にとっても重要な役割を担っていることを
示唆している。
さらに、通常は胚発生初期にはオフになっているはずの発達遺伝子が、
H3K27me3が欠けた胚ではオンになっていたことも発見。
今回の研究はショウジョウバエを使ったものだが、H3K27me3は
マウスの初期胚におけるクロマチン構造でも検出されており、
ほかの哺乳類においても同様のプロセスを経るものと推測される。