STOを用いた人工ニューロン
産業技術総合研究所は、スピントルク発振素子(STO)を用いた
人工ニューロンを考案し、その原理を実証したと発表した。
ヒトの脳では、ニューロンとシナプスによって情報処理が行われている。
これを模倣したのが、ニューロモロフィック・コンピューティングだ。
この技術を用いることで、膨大で曖昧・不完全な情報の処理が、
低い消費電力で高速に実行できると期待されている。
だが、ニューロモロフィックシステムの高度化には、高効率で超小型の
人工ニューロンや人工シナプスが不可欠である。そのため、産総研は
低消費電力・高効率な発振素子となりうるスピントルク発振素子の
実用化研究に取り組んできた。
同研究では、ナノメートルサイズのSTOを人工ニューロンとして用いて、
ニューロモロフィック回路音声認識システムを開発した。
ちなみに、ナノメートルサイズの人工ニューロンを用いた音声認識は、
世界初であるようだ。
このシステムは"0"~"9"の言葉を、99.6 %の正答率で認識可能だ。
これは光学系リザーバーコンピューターと同等の正答率。
STOとは、直流電流を流すとスピンの共鳴歳差運動が励起され(強磁性共鳴)、
交流電圧が発生する自励発振素子だ。この発振素子の出力電圧は、
直流電流の大きさに依存するため、直流電流値を変化させることで、
出力の交流電圧値を変化させることが可能。このとき、交流電圧の振幅は
入力の変化に瞬間的に追従するのではなく、緩和時間と呼ばれる時間遅れを
伴って徐々に変化する。
また、交流電圧の振幅は、電流値に比例せず、非線形な振る舞いをする。
この緩和時間と非線形性という特徴を、ニューロモロフィックシステムで
必要とされるshort term memory (短時間記憶)や信号の非線形性として
活用できると考え、スピントルク発振素子を用いた高効率・超小型の
人工ニューロンを考案したのである。