漂海民バジャウの遺伝子変異
フィリピン・マレーシア・インドネシアの周辺海域で暮らす漂海民族バジャウ族の人々について、脾臓が大きくなるDNA変異があり、水中での活動に適した体になっていることが確認された。
natgeo.nikkeibp.co.jpこれまでの研究から、海生哺乳類のアザラシは脾臓がかなり大きいことがわかっている。この特徴は潜水能力の高い人間においても見られるものであるか確認するため、今回の研究は行われた。
今回の調査においては、バジャウ族と遺伝的に近いサルアン族のデータが、比較材料として利用されている。両者のサンプルを比較してみた結果、バジャウ族のもつ脾臓の大きさの中央値は、サルアン族の脾臓より50%も大きいことがわかった。
さらに、バジャウ族では、PDE10Aについて特定のバリアントが多く見られたが、サルアン族では確認されなかった。なお、PDE10Aとは、甲状腺ホルモンの制御にかかわる遺伝子のことで、マウスにおいては、ホルモンの量と脾臓の大きさは比例関係にあることが判明している。
この研究結果に対して、デューク大学医学部のリチャード・ムーン氏は「バジャウ族の優れた潜水能力は大きな脾臓によるものであることは確かだが、ほかの器官の適応も寄与しているかもしれない」と指摘している。
また、チベットなどの高地に住む人々を研究しているケース・ウェスタン・リザーブ大学の人類学者シンシア・ビール氏は、「バジャウ族の人々が遺伝形質のおかげで潜水が上手になったと納得するためには、生物学的な数値データがもっと必要だ」と考えている。